IP電話事業「近未来通信」(東京都中央区、破産手続き中)が事業への出資金名目で四千人から六百億円を集めた詐欺事件で、警視庁捜査二課の捜査本部は二十六日、詐欺の疑いで、同社の元専務(44)ら元幹部六人の取り調べを始めた。容疑が固まり次第、逮捕する。
捜査本部が詐欺容疑で逮捕状を取っている同社社長石井優容疑者(53)は国外にいるとされ、捜査本部は国際刑事警察機構(ICPO)を通じて国際手配するなどして行方を追っている。
捜査関係者によると、元専務らは二〇〇六年三月、都内で開かれた投資家対象の説明会で、インターネットに回線をつなぐIP電話中継局の設置費として、一口一千百万円を出資すれば通話料から毎月数十万円の配当を得られると、虚偽の出資話を説明。同年三〜七月、都内の会社役員ら四人から、それぞれ一千百万〜七千七百万円の計約一億二千万円をだまし取った疑いがある。
同社は〇二年以降、新聞やテレビに広告を出して出資を募り、全国のホテルで説明会を開くなどして勧誘していた。捜査本部は、中継局のサーバーが旧式で利用者が見込めないにもかかわらず出資を募り、集めた金をほかの投資家への配当に回す自転車操業をしていたとみている。
配当は〇六年九月ごろから滞りはじめ、同年十一月には本社や支店が一斉に閉鎖され、石井容疑者は行方不明になっていた。
同月に立ち入り検査した総務省によると、同社が国内外に二千四百六十六台あるとしていたサーバーのうち、稼働が確認されたのは都内の二台だけ。〇五年七月期の売上高百八十一億円のうち、通信事業収入は三億円程度だったという。
◆社長出国 “主犯格”なき立件
近未来通信の破綻(はたん)から三年になるが、ワンマンで知られた社長の石井優容疑者は国外に出国したきりで、警視庁は行方をつかめていない。
捜査関係者によると、石井容疑者は二〇〇六年十一月に中国へ出国後、インドネシアに渡航したこともあるが、ここ一年ほどの足取りは不明だ。
元専務ら幹部は、本紙の取材に「すべて社長の指示でやっただけ」と口をそろえ、石井容疑者が主導したと強調。石井容疑者からの聴取抜きでは、全容解明は困難とみられる。
ただ警視庁は、元幹部らも事件に積極的に関与した疑いが強いと判断。主犯格を逮捕できる見通しの立たない中で、強制捜査に踏み切ったことに「(元専務らが)被疑者であることに変わりはない。通常の事件と同様、捜査を尽くした結果だ」と説明している。
◆『不明社長 逮捕して』
「被害金は戻ってこないとあきらめた。思い出したくもない」
東京都江東区の無職男性(73)は二〇〇五年三月、新聞広告で近未来通信を知り、説明会に参加した。
会社案内によると売上高は急上昇。時代に合った事業だと感じ、海外展開する先見性にもひかれた。プロ野球OBによるマスターズリーグや女子プロゴルフの大会でスポンサーになっていたこともあり、同社を有望と信じ込んだ。〇五年五月と〇六年七月、計一千百万円を出資し、八王子市と神戸市の中継局オーナーになった。
しかし、〇六年八月、同社は「自転車操業」と報道され、一カ月後には月々の「還元金」の収入が途絶えた。男性が中継局を訪ねると、住所地は古ぼけた雑居ビル。部屋には入れてもらえず、サーバーは確認できなかった。まもなく同社は破産手続きを開始。退職後、妻と旅行などを楽しもうとためていた資金の大半が消えた。
杉並区の会社経営の男性(54)は〇四年五月、中継局オーナーになり、オーナーを増やせば手数料をもらえる代理店にもなった。近未来通信には五千万円以上を支払った。
同社のソウル中継局を見学する旅行にも参加。同行した幹部が東京の本社とテレビ電話で通話する実演もあり信用した。しかし、手数料の入金が遅れたため問い合わせると、「提携先の海外の通信会社で問題が生じた。詳細は秘密保持のため言えない」と繰り返すばかり。まもなく同社は破綻した。
この男性は「手が込んでおり、全く疑わなかった。今となっては、だまされたのが恥ずかしい」と肩を落とす。
被害者らは「行方不明になっている石井優社長も逮捕してほしい。詐欺にかかわった全員がしっかりと責任を取るべきだ」と声をそろえた。
<近未来通信> 毛皮や宝石の販売会社として、1997年設立。インターネットを活用し、98年にIP電話事業を、2002年にIPテレビ電話事業を開始。電話中継局のオーナーになれば配当金を支払うとうたい、投資家から1人当たり最低1100万円を集めた。しかし06年11月、全事務所を一斉に閉鎖。翌月には東京地裁が破産手続きの開始を決定した。総務省の検査で出資金を配当金に回す自転車操業だったことが判明した。